エレウシスの秘儀は紀元前1500年頃、アテナの近くにあるエレウシスという場所から始まったとされています。
古代ギリシャの中でも他に類を見ないほど大きい宗教組織で、あのローマ皇帝さえも信仰していました。
当時のローマ皇帝が信仰している事から、いかにメジャーな宗教だったのかわかります。
2,000年以上続いたエレウシスの秘儀は、私達もよく知るキリスト教にも多大なる影響を与えています。
そんな強大な影響力を持った宗教とはどのようなものだったのでしょう…。
エレウシスの秘儀とは?
古代ギリシャの人々は、一部の英雄たちを除いて、死後は冥界へ行くと信じていました。
日本風に言うのであれば、一般人は全員地獄行きみたいな感じです。
中々ハードな死後観ですよね、特別な一握りの英雄以外は天国に行けないなんて…。

エレウシスの神殿
エレウシスの秘儀の入信者には、ペルセポネが冥王ハデスにさらわれ、地上へ帰還するまでの神話と同じ過程を儀式の中で体験させます。
なぜペルセポネの神話を体験させるのかというと、エレウシスの秘儀のテーマがペルセポネの神話だからです。
この儀式の内容は超極秘事項だったようで、現代でも全ては解明されていません。
死後の世界や死者の復活をモチーフとした儀式には幻覚作用のある薬物も使用されたことから、特別な体験をした信者たちは、死後の世界で特別な地位を得られると信じていました。
冥界の女王ペルセポネの神話
「ペルセポネ」は、収穫の女神である「デルメル」と全能神「ゼウス」との間に誕生しました。
ある日、ペルセポネが花を摘んでいると、突如現れた冥王ハデスに誘拐されてしまいます。

ハデスに誘拐されるペルセポネ
愛しの娘を誘拐されたデルメルは、女神の仕事を放り出して9日間探し続けますが一向に見つかりません。
実はこの時、ペルセポネの誘拐を冥王ハデスに持ちかけたのはゼウスでした。
ゼウスは、いつまでも独身でいるハデスにペルセポネを花嫁にどうかと薦めたのです。
自分の娘を冥王の花嫁にしようとするとか、正気の沙汰とは思えないゼウス。
その事実を知ったデルメルは、ゼウスに抗議しますが突き返されてしまいます。
怒って仕事を放棄したデルメルに見放された大地は、酷い干ばつが起こり作物が育たないに地に変わり果ててしまいました。
作物が実らず、食料不足で人々が飢えに苦しむ状況を見たゼウスはようやく重い腰をあげます。
いや、収穫の女神がいなくなったらどうなるかわかるだろうに…。
自分のミスを知らんぷりして、ヤバい事態になるまで放置しておくゼウス。
本当にギリシャ神話の神々は人間をイジメるのが大好きです…。
ゼウスはデルメルに帰って来て仕事をするように説得しに行きますが、デルメルは断固として拒否!
娘が返ってくるまで、絶対帰らない!!
当然です。これはどう見てもゼウスが悪い。
どうにもならなくなったゼウスは渋々冥王ハデスにペルセポネを解放するように伝えに行きます。
ゼウス本人がハデスの元へ行くと思いきや、使いの神「ヘルメス」に向かわせます。
いや、自分で行けや。
という気持ちは置いておいて、その頃冥界ではペルセポネは盛大なもてなしを受けていました。
ハデスの妻となったペルセポネですが、一向に心を開く気配が無いペルセポネに対し、美しい宝石や財宝を与え、優雅な歌や踊りでペルセポネを楽しませようとハデスは必死です。
冥王とか言われつつ無理やり服従させようとせず、楽しませようと必死なハデス…可愛い。
冥界に来てから何も口にしていなかったペルセポネは、空腹には勝てず冥界のザクロ種を4個(もしくは6個)食べてしまいます。
しかし、冥界の食べ物を口にした者は地上へ戻る事が出来ません。
そこでゼウスは、ハデスと交渉して1年のうち4か月~6か月は冥界で過ごし、それ以外は母の元で過ごす事で和解しました。

ペルセポネの帰還
ペルセポネが冥界で過ごしている間は作物が育たず、地上へと戻ると作物が実りだす。
そう、冬の訪れと春の訪れを示す「季節」の始まりです。
ゼウスが余計な事をしなければこの世界は年中穏やかな気候で冬の寒さに悩まされる事も無かったと…。
エレウシスの秘儀における極秘の儀式
冥界への入り口があると信じられていたエレウシスの地で行う儀式は、ペルセポネの追体験をさせる事にあります。
つまり、冥界へ行き死の恐怖や不安を取り除き、地上へと戻る。
これを9日間に分けて儀式として執り行います。
儀式にはキュケオンと呼ばれる飲料水が使用されていた。
この飲み物には幻覚作用があり、LSDと似たような効果があったとされる。
事実、この儀式に参加した入信者達は「特別な経験をした」と、より信仰心を強め2000年以上続く強大な宗教へと発展していったと考えられます。
このようにエレウシスの秘儀では、ペルセポネの死と再生を表現する神話に重ねて、人間が死後に辿る道のりをあらかじめ体験させるものでした。
死後の世界への不安や、作物が育たない冬の時代を反映した神話が主題の宗教はこの時代の人々の心に刺さったのでしょう。
残念なのは、儀式の内容は絶対に外部に漏れてはいけないと、極秘事項とされていた事です。
その為、詳細な儀式の内容は今でも謎のままとされています…。
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